世界一恵まれた日本の海
日本の国土は小さいため、魚を捕れる範囲も狭いと思っている人は多いと思います。
しかし、いわずもがな日本はぐるっと海に囲まれた島国です。そのため、海岸線の長さは世界でなんと6番目!そこから伸びるEEZ、200海里の面積も6番目で、200海里は海底まで利用できるため体積で考えると世界で4番目の大きさなのです!
それだけ海を広く利用できる上に、世界三大漁場の一つである北西太平洋海域がすぐ近くにあります。この海域は世界の漁獲高の1/4を占め、2位に10%以上の差をつけ堂々の1位です!
この地域では寒流である親潮と暖流である黒潮の二つの海流がぶつかるため、栄養塩やプランクトンが豊富です。それを求めて多くの種類の魚がやってきます。水産大国ノルウェーやアイスランドでは、漁獲の8割が5,6種類の魚で占められますが、日本では18種とバラエティに富んでいることが分かります。
さらに、武蔵堆や大和堆で有名な、「堆(たい)」という豊富な栄養塩を備えた海底の山のようなものがあったり、それが河川に流入してできる東京湾、伊勢湾、瀬戸内海などの「内湾」もあります。さらにさらに!カレイ、カニなどが棲む「陸棚」まであるという、間違いなく世界一漁業に適した国なのです!
漁業大国だった日本の凋落
戦後食べるものがなかった時代に、たんぱく源は海から捕るしかないということで国を挙げて漁業を推進します。元々魚を捕るのはうまい日本人ですから、その成果が出て1970年代まで世界一の漁業国として君臨します。
しかしやりすぎました。排他的経済水域という概念がなかった時代、外国の沖まで乗り付け捕ったそばから加工するという誰でも怒るようなことをしてしまうのです。
もちろん当時は違反ではありませんでしたが、世界中から反発を受けルール変更を余儀なくされてしまいます。排他的経済水域をはじめ様々な規定がなされました。
その変化に対応できず、日本の漁業は衰退の一途を辿っているのです。
↑日本の漁業別漁獲高。1984年をピークに66%も落ち込んでいる。かろうじて海面養殖だけ横ばいだが、他国は養殖でも伸びている。
↑世界の漁業別漁獲高。資源管理を取り入れてから海面漁船漁業の漁獲高は横ばいだが、質のいい魚を狙って捕っているため生産性は高い。
魚の増える世界と減る日本
世界各国の漁獲高は年々増加しています。捕り過ぎて数を減らさないよう水産資源管理を行っていて、調査によって資源が増えていることも明らかになっています。
排他的経済水域が設定されるまではどこでも好き放題とれました。しかし、決められた場所でしか捕っちゃダメだよということになれば、量から質へと方針を転換しなくてはなりません。
根こそぎ捕って絶滅させては元も子もないのは明白です。漁業大国ノルウェーでは魚の資源管理に本格的に着手するようになり、次第に世界中でその流れになっていきました。
しかし、日本では今まで通り量で勝負し続けました。不運なことに1980年頃から1990年頃まで、日本でイワシが大量発生しました。苦労することなく魚が捕れたため、対策が遅れる要因の一つになったと思います。
1996年にようやく日本も資源管理に乗り出しますが、その内容が海外と違って酷いものでした。(後述します)
漁解禁と同時に全力で争うことから、俗にオリンピック方式と言われています。しかも、枠を超えて捕っても最近まで罰則規定がありませんでしたからね。
資源管理は科学的にやらないと意味がない
1996年に日本も資源管理に乗り出したと書きましたが、この表現は正確ではありません。海の憲法である国連海洋法条約によって漁獲枠規制を設けることが決まったため、しぶしぶやり始めただけなのです。
当然、漁獲枠の設定の仕方が適当です。頑張っても捕り切れないような枠を設定し、上限を突破しそうになったら上限をさらに拡大するという、全く意味のない運用をしていました。
もちろん魚は減少する一方です。稼ぎが減るため、漁師は頑張って稚魚まで捕るようになります。将来親になり、卵を産む稚魚にまで手を出すという行為は絶滅へ一直線です。ちなみに、アメリカやカナダでは小さいマグロを捕ることは禁じられています。
断っておきますが、これは漁師のモラルが低いとかそういう話ではありません。仕組みが悪いのです。オリンピック方式を採用すれば、日本でなくとも早い者勝ちヨーイドンの勝負になるのは目に見えています。そこで個別漁獲割当制度(IQ制度)の出番です。
個々の漁業者に一定の漁獲量が割り当てられるので、焦って捕りに行く必要がなくなります。小さいものを狙おうが大きいものを狙おうが、大きさではなく重さで計測するため、質のいい脂の乗ってまるまる太ったものだけ狙うようになります。
いい状態のものだけ狙うとなると、他の漁業者との情報交換をしたほうが効率がいいですよね。ライバルから仲間へと枠組みが変化し、無駄な争いがなくなります。おまけに、漁獲量が決まっているため多く船を持つ必要がなくなるので、設備投資や維持費が少なくなりいいことづくめです。
そして何より、そうしているうちに小さな魚はすくすく成長し、子孫を残してどんどん増えていきます。
2011年、このIQ制度を日本で初めて本格導入したのが佐渡市赤泊地区のエビカゴ漁です。儲かる上に休みも増えて、全員がやってよかったと口を揃えて言ってます。
何せ水産庁も利権の巣窟ですからね。次回は、日本の漁業の闇について触れていこうと思います!
・日本の漁業は1970年代から衰退し、現在では漁業後進国に
・魚は捕らなければ間違いなく増える
・漁獲枠規制(TAC制度)には早いもの勝ちのオリンピック方式と、個別に捕れる量が決まっているIQ方式があり、先進国でオリンピック方式を採用しているのは日本だけ
・排他的経済水域は自由に海を使うことができると同時に、資源管理の責任を伴う
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